日本、米国アカデミー賞など数々の賞を総なめにした映画『おくりびと』。
残念ながら映画はまだ見ていないが、TVのCMを見て、もう30年も前に
亡くなった祖父のことを思い出した。
家で亡くなったので、家族皆が身体を拭いたり綿を詰めたりして、旅立ち
の支度をした記憶がある。
その頃は家で看取ることは普通だったが、今は家で死ねない社会になった。
大半の人が病院で息を引き取り、たまに家で亡くなると、警察が来て取り
調べられるという。万が一事件であったらということらしいが、悲しみの
中にある遺族としてはいたたまれないだろう。
知人が先日、スリランカの話をしてくれた。
「スリランカでは、末期を迎える時は、家の一番いい部屋に寝かせて、
当人のわがままをいろいろ聞いて、当人が会いたい人を皆呼びます。
誰もが遠方から『功徳だ』と言って会いにきて、ずっと見守ります。
さらに、死んだらこうするんだとか、ああ言うんだとか、
死後の世界についてまるで知っているかのように、ノウハウをその人
に伝え、わいわい楽しんで送ります。
当人も幸せそうに死んでいくのです」と。
さらに
「日本も昔はお年寄りみんな笑ってたのに、今、笑っているお年寄り
がいない。明日が楽しみと言うお年寄りを見たことがない」と続けた。
本当にそうだ。ずっと昔の日本は、家庭の中で、近所で、お年寄り
を大切にする社会だった。お年寄りは尊敬すべき存在だった。
そんな社会に戻さないと大人を尊敬する子ども、未来に目的を持って
生きる子どもは育たないと思う。
皆同じように老いていき、自分も送られる側になる。
笑っていい死に方が出来るような社会に戻すのは、今からでも遅くない。
まずはちょっと見方を変えること。
日頃かけない言葉をかけてみること。
目の前の一歩から始めてみたい。
【yomiっこ 2009年05月号より抜粋】